「腰が痛いから、できるだけ動かないようにしている」
「今日は調子がいいから、まとめて家事をやってしまおう」
慢性的な痛みがある方では、このように「動かない」か「頑張りすぎる」かの両極端になってしまうことがあります。
実は、後ほど記載しますが、身体活動と痛みの関係については、活動量が少なすぎても、多すぎても痛みと関連する可能性があるという「U字型」の関係が報告されています。
では、どうすればよいのでしょうか。
そこで知っておきたいのが、アクティビティペーシング(activity pacing)です。
結論:大切なのは「動く・休む」のバランス
アクティビティペーシングを簡単に説明すると、
「自分が無理なく続けられる活動量を決め、活動と休憩を組み合わせながら生活する方法」
です。
ポイントは、
「痛くなったら休む」ではなく、「痛みが強くなる前から計画的に休む」
こと。
そして、もう一つ重要なのが、
「痛いから何もしない」状態をできるだけ避けること
です。
つまり、ペーシングは「できるだけ動かないための方法」ではありません。
動かなすぎと頑張りすぎの間で、自分に合った活動量を探すための考え方です。
活動量と痛みは「U字型」になることがある?
身体活動と腰痛の関係を調べた研究の中には、興味深い結果があります。
2009年に発表されたオランダの研究では、成人3364人を対象に身体活動と慢性腰痛の関係を調べたところ、座りがちな生活を送る人と、身体的に非常に負荷の高い活動を行う人の両方で、慢性腰痛との関連がみられました。(1)
つまり、
活動量が少ない
↓
腰痛のリスクが増える
一方で、
活動量が多すぎる
↓
腰痛のリスクが増える
という、U字型の関係が示されました。

活動量が少ない/極端に多いと腰痛のリスクが高まることを示しています。
ここで大切なのは、
「活動量は多ければ多いほど良い」というわけでも、「動かないほうが良い」というわけでもない
ということです。
だからこそ、
「自分にとって無理なく続けられる活動量を続ける」
という考え方が重要になります。
「痛いから動かない」が続くとどうなる?
痛みがあれば、動きたくなくなるのは自然なことです。
しかし、慢性的な痛みがある状態で活動を避け続けると、
痛い
↓
動かない
↓
活動する機会が減る
↓
体力や身体機能を維持する機会も減る
↓
以前できていた活動が大変になる
↓
さらに動かなくなる
という循環につながることがあります。
慢性疼痛の管理では、可能な範囲で身体活動を維持することが重要とされています。
つまり、
「痛いから完全に休む」
という方法だけではなく、
「痛みがあってもできる範囲で活動する」
という考え方も重要なのです。
反対に「頑張りすぎ」も問題になる
「動いたほうがいいなら、痛くても頑張ればいい」
のでしょうか。
先ほどの記載から明白ですが、これも違います。
例えば、普段は30分しか歩かない人が、
「今日は調子がいい!」
と突然2時間歩いたとします。
その日は問題なくても、
「翌日は痛みが強くてほとんど動けない」
ということが起こるかもしれません。
(意外かもしれませんが、慢性的に痛みがある方の中でこれに当てはまる方は結構いらっしゃいます)
すると、
頑張る
↓
痛みや疲労が強くなる
↓
数日間、動けなくなる
↓
体が弱った状態で痛みがマシになったら、また頑張る
という「頑張りすぎ→休みすぎ」の繰り返しになります。
このような活動量の大きな変動を避けるためにも、活動と休憩を計画的に組み合わせることが役立ちます。
そこで「アクティビティペーシング」
例えば、掃除をすると腰が痛くなるとしましょう。
これまで、
「痛くなるまで掃除する」
という方法だったなら、
「今日は15分掃除したら一度休憩する」
という方法に変えてみます。
15分後に休憩し、必要なら再開します。
大切なのは、
「限界まで頑張ってから休む」のではなく、「活動を続けられるように休憩を先に組み込む」
ことです。
いくつかの例を下に記します。
買い物
「痛くなるまで歩く」
↓
「店内を一通り回ったら一度休憩する」
人によって「店内を半分回ったら」だったり、「カートを押して楽なら2周回ってみて」など、一人一人に合わせるような感じです。
デスクワーク
「腰が痛くなるまで座る」
↓
「一定時間ごとに立つ・姿勢を変える」
これは元気な方でも1時間に1回くらいは姿勢を変えて欲しいです。
リハビリテーション中に私も、痛い方なら「30分」、すぐ痛くなる方でしたら「15分くらい」とお伝えすることがあります。
ウォーキング
「その日の気分で歩く距離を大きく変える」
↓
「まず一定の時間・距離を目安にする」
という方法があります。
アクティビティペーシングの実践5ステップ
「考え方は分かったけれど、実際にどうすればいいの?」
という方は、次の5つから始めてみましょう。
① まず「やりすぎてしまう活動」を一つ選ぶ
最初から生活すべてを変える必要はありません。
例えば、
- 掃除
- ウォーキング
- 買い物
- 料理
- 庭仕事
- デスクワーク
など、「やった後に痛みや疲労が強くなりやすい活動」を選びます。
② どのくらいでつらくなるか確認する
次に、その活動を普段どのくらい続けているのかを確認します。
例えば、
「掃除をすると30分くらいで腰がつらくなる」
「20分歩くと、その後かなり疲れる」
などです。
ここで重要なのは、限界まで試して活動量を測る必要はないということです。
普段の生活から、おおよその活動量を把握します。
※それが難しければ、必ず安全だと思える量から少しずつ増やすという方法もアリです。
③ 「限界になる前」に休憩を入れる
次に、活動と休憩をあらかじめ決めます。
例えば、
30分でつらくなる掃除 → 15分程度で一度休憩
というようにします。
「痛くなったら休む」のではなく、
「まだできそうだけど、ここで一度休む」
というのがポイントです。
④ しばらく同じペースを続ける
ペーシングを始めたからといって、毎回すぐ活動量を増やす必要はありません。
まずは、
「この程度なら無理なく続けられる」
というペースを安定させます。
調子の良い日に突然活動量を増やしてしまうと、再び「頑張りすぎ→休みすぎ」のパターンに戻る可能性があります。
⑤ 安定したら、少しずつ活動量を調整する
一定の活動量を無理なく続けられるようになったら、
「もう少しできそう」
という範囲で活動量を調整します。
例えば、
15分 → 20分
といった具合です。
ただし、何%増やす、何日ごとに増やすといった一律のルールがあるわけではありません。
※痛みが強い方なら「1週間後に15分 → 17分」という増やし方でも大丈夫です。
痛み、疲労、体力、仕事内容、目標などによって適切なペースは異なります。
必要に応じて、理学療法士や医師などの医療専門職と相談しながら調整するとよいでしょう。
「痛みが出ない量」を探す必要はない
ここは非常に重要です。
ペーシングだからといって、
「痛みが絶対に出ない活動量を探しましょう」
という意味ではありません。
慢性的な痛みでは、活動中に多少痛みを感じることもあります。
大切なのは、
「痛みが出たらすべて中止する」や「痛みを我慢して限界まで続ける」
ではなく、
「生活に必要な活動を続けられる範囲で、活動量を調整する」
ことです。

このU字の曲線は能力が上がったりすると左右にずれたりしますので少しずつ増減していくことが重要です。
2019年のシステマティックレビューでは、ペーシングによって痛みそのものが明確に改善するという十分な根拠は示されていません。一方で、疲労による生活への支障などに改善がみられる可能性が報告されています。(2)
また、2026年のシステマティックレビューでも、ペーシングは身体機能の改善方向を示す研究がある一方、痛みや疲労については結果が一貫しておらず、エビデンスの確実性は非常に低いとされています。(3)
そのため、「ペーシングをすれば痛みが治る」とは言えません。
しかし重要なのは痛みがあって生活に必要な動作ができないとなると当たり前ですが本人も周りの人も本当に困ったことになります。
そのため「痛みがあっても、できるだけ自分の生活を維持するための方法」であると考えて頑張っていただきたいです。
(痛みに耐えているだけで頑張っている、というのは本当にそう思います。また他の記事で記載しますが運動ができるようになると「運動誘発性鎮痛(EIH)」という痛みを抑える効果も出てきます。)
まとめ:「動かない」「頑張りすぎる」は両方間違い
慢性的な痛みがあると、
「痛いから動かない」、「今日は調子が良いから今のうちに頑張る」
という両極端になりがちです。
上で申し上げた通り身体活動と痛みの関係にU字型のパターンが報告されています。
ここから
「活動量は多ければ多いほど良い、少なければ少ないほど良い、という単純なものではない」
といえます。
だからこそ、
活動する
↓
休憩する
↓
また活動する
というペースを作ることが大切になります。
これがアクティビティペーシングです。
これの目標は、
「今できる活動を続けながら、少しずつ生活の幅を広げていく」です。
まずは、普段の生活で「頑張りすぎて、その後に何もできなくなる活動」を一つ見つけてみましょう。
そして、限界まで頑張るのではなく、少し余裕があるところで休憩を入れる。
それを繰り返しながら、自分にとって続けやすい活動量を探していくことが、痛みにとらわれない生活の第一歩です。
いかがでしたか?
痛みがあるだけでなかなかそこまで考えられないという方もいらっしゃるでしょうが、頭の片隅に置いていただき、元気な時ほど無理しすぎないようにしてください。
本当に痛みがある方は自分の時間を無視して頑張りすぎな方も多い印象です。
今後もブログを書いていきますので応援いただけますと幸いです。
参考文献
1) Heneweer H, Vanhees L, Picavet HS. Physical activity and low back pain: a U-shaped relation? Pain. 2009 May;143(1-2):21-5.
2) Guy L, McKinstry C, Bruce C. Effectiveness of Pacing as a Learned Strategy for People With Chronic Pain: A Systematic Review. Am J Occup Ther. 2019 May/Jun;73(3):7303205060p1-7303205060p10.
3) Antcliff D, Burns L, English E, MacKenzie R, Geraghty AWA, Marriott-Smith J, Stansfield R, Storms K, Jinks C, Holden MA. Operant Approach Activity Pacing Interventions for the Management of Chronic Pain: A Systematic Review. Clin J Pain. 2026 Sep 1;42(9):e1393.
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